リンパ浮腫・心不全浮腫と皮膚トラブル予防のための「賢い」保湿ケア

リンパ浮腫や心不全による浮腫(むくみ)がある方は、単なる見た目の問題以上に、皮膚が傷つきやすい危険な状態にあることを知ってください。

疾患特有のリスク

リンパ浮腫間質液のタンパク質濃度が高く、皮膚が厚く硬くなり(線維化)、感染症(蜂窩織炎)を繰り返すリスクが極めて高い
心不全浮腫心不全浮腫:特に下腿に水分が溜まりやすく、皮膚がパンパンに張り、わずかな刺激で皮膚が裂ける(皮膚潰瘍)危険性がある

保湿は、これらの重篤な合併症を予防するための、欠かせない医療的ケアです。

なぜ「保湿」が不可欠なのか

皮膚は、その複雑な構造を通じて、私たちの生命維持に不可欠な複数の機能を果たしています。

保護(バリア)機能外部からの細菌や化学物質の侵入を防ぐ 表皮の角層が、体内の水分の過度な蒸発を防ぎ、体の潤いを保つ
体温調節機能気温が高いときや運動中には、汗腺から汗を分泌し、その蒸発熱で体温を下げる 気温が低いときには、皮膚の血管を収縮させて熱の放散を抑え、体温を保つ
感覚機能真皮にある神経終末を通して、触れる、痛い、熱い・冷たいといった外部の情報をキャッチし、脳に伝える。これにより、私たちは危険を回避できる
分泌・排泄機能皮脂(皮膚を保護する油分)や汗(水分、塩分、老廃物を含む)を分泌し、皮膚の表面を整えたり、一部の老廃物を排泄したりする
ビタミンDの生成太陽光(紫外線)を浴びることで、皮膚内でビタミンDを合成する。ビタミンDは、骨の健康維持に非常に重要

浮腫皮膚のメカニズム

保湿の最重要目的は保湿剤で人工的な保護膜を作り、外部からの刺激や細菌の侵入を防ぎ、皮膚の乾燥によるかゆみ(掻破→傷→感染のリスク)を抑えることである。

一般の保湿クリームは使っていい?「賢い」保湿剤の選び方

基本的に使用して問題ありません。高価な専用品でなくても、保湿機能がしっかりしていればOKです。重要なのは、毎日、たっぷり、惜しまず継続すること。

注意点としてアルコールや強い香料、着色料が多く含まれているものは、刺激になる可能性があるため避けるのが賢明です。

コストを考慮した賢い選択肢

選択肢特徴コスト目安おすすめの患者層
白色ワセリン非常に高い保護力。皮膚上に膜を作り、水分の蒸散を強力に防ぐ。最も安価で刺激が少ない。非常に低全ての浮腫患者、特に乾燥・ひび割れがひどい場合。
ヘパリン類似物質保湿だけでなく、血行促進・抗炎症作用も期待できる。医療用(処方)と市販品がある。中~高軽度〜中度の浮腫、皮膚の硬化(線維化)があるリンパ浮腫の患者。
尿素配合クリーム角質を溶かし、硬くなった皮膚を柔らかくする作用がある。皮膚が厚く硬くなっているリンパ浮腫の患者。(注意:傷や炎症がある場合は刺激になるため避ける)
セラミド配合品皮膚にもともとある成分でバリア機能を補強する。高価だが、敏感肌には適している。刺激に弱い敏感肌の患者。

【ポイント】

保湿剤は、医療費として考えましょう。高価な専用品をケチって使わず、安価でも良いので、毎日広範囲にたっぷりと塗ることが最大の感染予防になります。

摩擦を避ける保湿ケア

まずは清潔にする!

洗浄後は、タオルで叩くように水気を優しく吸い取り、絶対にこすらない。

こすることで皮膚を傷つけてしまうからです。

塗布量はケチらない!

皮膚がテカるくらいにたっぷり手に取る。

塗り方は優しく!

浮腫の部位に対し、心臓に向かう方向(末端から中枢へ)へ優しくなでるように伸ばす。これにより、リンパ液の流れを助ける効果も期待できる。

摩擦を避けるため、指先に力を入れず、手のひら全体で包み込むように塗る。

リンパ浮腫皮膚が硬くなっている部分には、ヘパリン類似物質などを塗り込み、マッサージをする前の「滑剤」としても活用する
心不全浮腫皮膚が張りすぎて薄くなっている部位は、特に優しく、ワセリンなどでしっかり保護する。

ストッキングとの併用

保湿剤がしっかり馴染んでから、弾性ストッキングや包帯を装着する。ベタつきが残っていると、ストッキングの着脱時に皮膚を傷つける可能性があるため注意。

受診の目安と再発予防

保湿ケアを継続しているにもかかわらず、皮膚が赤く、熱を持ち、急に痛みだした場合(蜂窩織炎の可能性が非常に高い)は、すぐに医療機関を受診してください。

かゆみや湿疹が悪化する場合は、自己判断せず、医師に相談し、ステロイド外用薬などの治療薬と保湿剤を適切に併用することが重要です。

まとめ

保湿ケアで重要なことは

  1. 皮膚を清潔に保つ
  2. 保湿剤はケチらず使用する
  3. 塗る時は優しく

意識的に行えるといいですね。

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